海保機への滑走路進入指示、交信記録になく 羽田空港の日航機炎上で国交省が記録公表

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東京・羽田空港の滑走路で2日夜に日本航空(JAL)の旅客機と海上保安庁の航空機が衝突し、5人が亡くなった事故で、国土交通省は3日夕、管制官と両機との交信記録を公表した。記録によると、海保機に対する滑走路への進入指示はなかった。
日本政府や警視庁などによると、JAL機と海保機の衝突で、炎上したJAL機の乗員乗客379人が避難した。乗客乗員のうち14人が負傷したという。一方、海保機の乗員6人のうち5人が死亡。機長は重傷を負った。
この事故について国土交通省は3日、空港管制官とJAL516便や海保JA722A機との交信記録を、BBCなど報道各社に公表した。それによると、海保機に対して滑走路への進入指示は出ていなかった様子。
JAL516便は、札幌の新千歳空港を午後4時15分ごろに出発し、午後5時47分に羽田のC滑走路へ着陸した。海保JA722A機は、羽田空港航空基地に所属していた。
管制塔が午後5時45分11秒、「JA722A、東京タワー、こんばんは。1番目、C5上の滑走路停止位置まで地上滑走してください」と指示したのに対して、海保機はその8秒後、「滑走路停止位置C5へ滑走します。JA722A、1番目。ありがとう」と答えている。滑走路停止位置は、滑走路手前の誘導路にあり、離陸予定の飛行機はここで滑走路に入る順番を待つ。
事故前の交信記録によると、海上保安庁機JA722Aと管制塔の交信はこれで終わっている。
国交省の発表資料には、「JAL516(当該機:到着機1番目)」、「JA722A(海上保安庁機:出発機1番目)」との説明もある。

一方で朝日新聞などの報道によると、海保機の機長は事故直後、「管制官から離陸許可が下りていたという認識だった」という趣旨の内容を話していたという。
国交省が公表した記録によると、管制官は海保機とのやりとりに先立つ午後5時43分2秒、JAL機に対して「滑走路34Rに進入を継続してください」と指示。午後5時44分56秒には、「滑走路34R 着陸に支障なし」と連絡し、JAL機は5秒後に同じ内容を復唱している。
複数報道によると、日本航空は3日未明に記者会見し、乗員から聞き取った内容として、日航機に対する管制からの着陸許可を認識し、復唱後に着陸操作を実施したと発表した。
BBCはこのほか、当該の滑走路停止位置でいくつか停止線灯が点灯していなかったとの情報も得ている。しかし、これについて専門家は、滑走路とその周辺の区域には、照明だけでなく、滑走路に入る前の停止位置がペンキなどでマーキングされていると指摘する。

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乗客の1人は共同通信に対して、「着陸時にボンと何かにぶつかったように突き上げる感じがした。窓から火花が見え、機内にガスや煙が充満した」と話している。
現場の生中継映像では、着陸したJAL機から大きな火の玉が上がり、JAL機が燃えながら滑走し、停止する様子が映っていた。乗客は非常扉から脱出シュートで脱出し、走って機体から離れた。
乗客の1人はソーシャルメディアに現場の写真を投稿し、「乗ってました。無事です。よかった」と書いた。
当局によると、日航機の乗務員は着陸前に特に異常を報告していなかったという。
日本航空は2日夜、「本日1月2日夕刻、当社のJAL516便が羽田空港に着陸した際、海上保安庁の航空機と接触し滑走路上で炎上しました。お亡くなりになられた海上保安庁の関係者の方々のご冥福を心よりお祈り申し上げます。当社便にご搭乗されていたお客さま、乗員は全員脱出したことを確認しております」とコメントした。
岸田首相は同日午後9時前に首相官邸で記者団に対し、日航機の乗客乗員が無事だったことと、海上保安庁機の乗員6人のうち5人が死亡したことを明らかにした。
首相は、「能登半島地震の対応のために搭乗していた海上保安庁の職員6人のうち、5人が死亡したと報告を受けた。この方々は被災地、被災者のために高い使命感、責任感を持って職務にあたっていた職員で、大変残念なことだ。その使命感に敬意と感謝を表し、哀悼の誠をささげる」と述べた。
海上保安庁機は能登半島地震の被災地支援のため、新潟航空基地に救援物資を輸送する途中だった。

衝突したJAL機はエアバス「A350」。A350は、強くて軽い複合素材のカーボンファイバー強化プラスチックを多く使用している。A350が関係する大事故は、今回が初めて。
エアバス社は2日、事故原因調査を支援するために専門家チームを日本に派遣すると発表した。